ある日の仕事帰り、実家に寄ると、姪っ子が
「メイ(姪)ちゃんはもう、じいじと口きいてあげんのんよ!」
とプンスカ怒っていた。
何があったのか尋ねると、
「メイちゃんのことをおねえちゃんって言ったらダメなのに、じいじがおねえちゃんって言った!!!」
とのこと。
よくわからない。
確かにメイちゃんは一人っ子だが、私とのおままごとではいつもお姉ちゃん役(あるいはお兄ちゃん役)をやりたがる。そして妹(あるいは弟)の私にめちゃめちゃマウントをとってくる。
じいじ(父)によれば、その日メイちゃんは近所の1つ年下のお友達と遊んでいて、ヤモリを見つけたらしい。彼女はそれをペットとして持ち帰りたかったのだけれど、お友達も同様にヤモリを欲しがった。その時じいじが「メイちゃんはお姉ちゃんでしょ」と言ってお友達に譲るよう諭したことに、メイちゃんはひどくご立腹なのだった。
「つい、お姉ちゃんなんだからっていう言い方をしてしまったんよねー」と父なりに反省している様子。
(父のその説明の最中にも、横から「メイちゃんはおねえちゃんじゃなああああい!!」とブチギレる姪。)
年上年下といっても、どちらもまだ幼い子ども同士である。我慢を強いられることへの耐性は、両者まだない。そもそも、たかだか数年早く生まれたことが何かを諦めねばならない理由にはならない。
お姉ちゃんだから我慢しなさいなんて変だよね、と、メイちゃんの母である妹は、以前から娘にそう伝えていたのだ。
なるほど話はよくわかった。
でも…
「でもさ、メイちゃんはさ、」
私が言いかけたところで、仕事を終えた妹がメイちゃんを迎えに来た。
「ママーーーー!!!」
ドタドタとかけ寄り、母親に抱きついて今日自分が被った理不尽について懸命に訴えるメイちゃん。
「そっか、そっか、悲しかったね」
一通り話を聞き終えて、妹はメイちゃんを抱きしめる。
「メイちゃんの方がお姉ちゃんなことは、お友達にヤモリを譲ってあげる理由にはならないよね。なのにじいじがそう言ったのは、ヤモリをどちらか一人にあげる理由が他になんにもなかったからなんよ。理由がないからって無理やり作るのは、ちょっとずるいよね。でもさ、じゃあ、どうすればよかったと思う?」
ただ真顔の沈黙を返す、メイちゃん。
「二人ともヤモリが欲しいし、絶対ゆずりたくないんだもんね。困っちゃうよね。じいじも困ったんよ。だからどうにかしなくちゃと思って、つい、メイちゃんはお姉ちゃんだから、って言ってしまったんだね。
ママは、年上だからって何かを我慢するのはおかしいと思う。でも、メイちゃんには、年上とか年下とか関係なく、お友達のことを思いやって、ゆずれる部分はゆずってあげられる優しい子になってほしいなって思う。それに、」
と妹が続ける。
「それに、大体あんた、ヤモリなんて触れないでしょーがー!」(メイちゃんのほっぺたを両手でぎゅーって挟みながら)
それ。
まさについさっき私が言いかけたこと。
お姉ちゃん云々思いやり云々はすっ飛ばして、着地点は一緒だった。
小っっこい蜘蛛出ただけで大騒ぎしてるくせに、何がヤモリだよ。
よくよくじいじに話を聞けば、ヤモリを捕まえたのも、お友達一人でらしい。怖がりのメイちゃんはただ横で見てただけだって。もちろん触れてもいない。
いやもうそれが理由で十分じゃないですか?ヤモリは最初からお友達のもんです。
(そしてこれは多分だけど、ヤモリがお友達に貰われていって、妹も多分(絶対)ホッとしてる)