『5秒日記』とは、エッセイストの古賀及子さんが書く日記の手法である。
5秒でさらっと書き留めるいわばメモ感覚の気軽な日記なのかと思ったが、そうではないらしい。1日の中のほんの5秒の出来事を、200字かけて書くのだそうだ。
その命名スタイルに、『キューピー3分クッキング』を思い出した。
「3分クッキング」の「3分」は、3分で作れる料理ということではなく、放送時間が3分という意味だ。
事実誤認したまま視聴していた子どもの頃、魚の切り身を合わせ調味料に30分漬けたものがいきなり出てきたり、これをオーブンで40~50分焼きます、とたったいま説明されたばかりのパウンドケーキの焼き上がり品を次の瞬間からデコレートし始める様子に「全然3分じゃないじゃないか!」と立腹したものだが、後に本来の意味を理解し、なるほどそうだったのかと納得した。
でも今ふと気になって、キューピー3分クッキング、とネットで検索してみた。
すると新たな情報が得られた。3分クッキングは放送開始当初はタイトル通り正味3分の放送時間だったが、1969年10月からは10分に延長されていたらしい。私が見ていた頃にはもう、どちらの意味でも3分ではなかったということだ。
それはさておき、私も5秒日記を書いてみた。
思いのほか、楽しい。
(ただし200字縛りについては、字数を数えるのがめんどうなのでスルーする。)
2/7(水)
妹宅で、姪っ子(7才)に「きて」と手を引っ張られ、トイレにつきあう。
彼女はまだ、夜のトイレに一人で行けない。
便座に座ってお尻に力を込め(うんちだった)、顔を真っ直ぐ私の方に向けて、人差し指でとんとんと自身の頬骨のあたりを叩きながら
「メイ(姪)ちゃんね、赤ちゃんのベッドに寝てた時のこと、目に残っとるんよ。」
と言う。目に残っている。なんだか詩的な言い回しだな、と思った。
「じいじのおうちでね、メイちゃんが眠いなあって思ってたら、パパが来たんよ。お仕事の帰りだったんだと思う。メイちゃん眠かったのに、パパに起こされたん。パパが、メイちゃーん、メイちゃーん、って頭撫でてくれたよ。」
「そっかあ。そこにおばちゃん(私)は、いた?」
何気なく聞いた質問に、彼女はえっ、と意表を突かれたような顔をして
「あー… いた!だって、なんか背中があったもん!メイちゃんおばちゃんの背中見たよ!あれは絶対おばちゃんの背中だった!」
と必死で背中背中と繰り返していた。小1に謎に気を遣われたっぽい。
さらに彼女は「あっ!あの日は水曜日だったわ!まじで!」とつけ加えた。
嘘に嘘を塗り重ねるタイプ。
2/9(金)
「売れるネット広告社」の株価の爆上がり様が、えぐい。
「売れるネット広告社って何なの?化け物なの?なんでわたしここ(の株)持ってないの?」といつものごとく就業中にスマホを握りしめててわーわー騒いでいると、後輩の営業男子に
「株取引なんてまじでただのギャンブルっすよね」
と言われた。
いやおまえのと一緒にすんなしー!
彼は株はやらないけれど、競馬・競艇・競輪・パチンコには熱心に取り組んでいる。
「私はね、応援したい会社に投資してるんよ!ギャンブルと一緒にしないでもらえますか!」
「いや自分も応援したい馬を買ってるんで」
「馬券はそのレース一回きりで、負けたらただの紙屑じゃんか。株はよっぽどじゃない限り、我慢して何年も持ってればプラスになる可能性があるからね!!」
「なるほど」
「まあ、塩漬け、ていう言葉もあるけどね…。私、5年くらい前に戻って、ジャパンエンジンとさくらインターネットの株買い集めたい」
「いや気の長い話だな!それこそ1日だけ戻って昨日のレースの馬券買った方が早いじゃないっすか」
て言われて、あっ、ほんまや、と思った。
2/10(土)
土曜日だけれど、今日は出勤日。
月曜日は建国記念日の振替休日で、火曜日は有休をとっているので、日曜日から3連休になる。
「せっかくの3連休、なんか予定あるの?」
と世間話のついで程度に所長に聞かれ、「ないです」と答える。
(ちなみに、今まで所長に「なんか予定あるの?」と聞かれて「ある」と答えたことは一度もない。)
「あ、でも、すごい人気の古民家カフェがあって、平日ならちょっとは空いてるかもしれないからそこに行ってみようかなーって思ってたんですけど、営業日確認したら火曜日は休みだったんですよねー。」
「古民家カフェ?なにそれ?」
「え、古民家カフェ、聞いたことありません?古い民家をカフェに改築してて。最近多いんですよ。女子は古民家カフェが大好物です。」
「へー、じゃあうちもカフェ開いたら繁盛するかも」
「カモデスネー」
適当に返事しながら、「女子は古民家カフェが大好物です」よりも「35歳過ぎた女子は古民家カフェが大好物です」の方がより正確かもしれないな、と思ったけれど、わざわざ訂正するほどのことでもないのでそのままにした。
2/12(月)
知人と二人で食べたサムギョプサル(初体験)が、めちゃめちゃ美味しかった。
めちゃめちゃ美味しかったけれど、たぶんこの店はそう長続きはしないだろうから食べれるうちにまた来よう、という結論になった。
「だってここってちょっと前まで雑貨屋だったよね。」
「うん。その前は何だっけ。」
「忘れた。ていうか、雑貨屋とサムギョプサルの間にもなんかちがう店一回挟んでるかも。」
「店の規模が小さすぎるわ。あとこんな田舎でオシャレ過ぎる。」
「店員さんイケメンだったね。あんなチャラい系イケメンなのに接客態度がちゃんとしてるとか、反則。」
「あの子はこんな町で終わるタマじゃないね。ここが繁盛したとしても、次は都会で勝負したくなると思う。近いうちに松山に行くね。」
「都会って、松山かよww」
好き放題に勝手なことを言い合って、帰宅した。
…これ全部5秒じゃないな。5秒はむずいな。
後でちょっと古賀さんのやつをちゃんと読んでみよう。