初詣2024

 

一年の中でもっとも好きな日は、12月31日かもしれない。

今年も代わり映えしない一年だったけれどそう悪くもなかったな、というしみじみした気持ちと、なぜか明日からの日々に向けた意欲に満ちている一日。

あと連休の序盤だし。

 

きちんと生きよう、

家計簿つけよう、

ケチらずに節約しよう、

健康的にダイエットしよう、

ささやかで大雑把な目標をとりとめもなく考えては、わくわくする。そしてこんなことでわくわくできているうちは私の人生まだ大丈夫だ、というひとつの目安になってもいる。

 

この十年、ずっと同じ人と初詣にいっている。

彼とは、職場でナンパされる、というしょうもない出会いで知り合って以来の(つかず離れずの)つき合いになる。

「俺晩飯おさえめにしといたから、出店でいっぱい食べれる。」と、王将を出て、初詣に向かう車中で彼が言う。

「出店あるかな。こんぴらさんだから色々ありそうだけど。」と私が答える。

言いながら、どうせ出店では何も買わないだろう、と私達は二人とも既に悟っている。

「お椿さんの時だっけ、肉巻きおにぎり、あれ、くっそ不味かったね。」と彼。

「肉、臭かったもんね。」と私。

子どもの頃の出店の高揚感が俺の中に沁みついていて、そこから抜け出せないのだ、と彼は言う。夜の闇にぼうっと浮かぶ屋台の明かりの列、醤油の焦げる匂い、人混み、カステラの甘い匂い、くじ引き、綿菓子、金魚掬い、イカ焼き、とうもろこし。胸が高鳴ったあの感覚だけがまだずっと残っていて、けれど大人になった自分はもう、そこがパラダイスではないことを経験的に知ってしまっている。だから実際に出店の前に立った瞬間に現実に引き戻され、大人の判断力で「やっぱいらん」って気づくのだ。

 

予想通り、出店では何も買わなかった。

代わりにお土産物屋さんを色々見て回った。

 

KAGAWANIさんというお店で見たお香のセットがかわいくて、はしゃぐ。

 

 

「香皿と香立ての組み合わせは自由に選んでもらっていいですよ」とお店の方が言ってくださり、それ故にさんざん迷う。自由ってむずかしい。むしろ制約をください。

「これとこれ、どっちが好き?」とお香立てとして使うとんぼ玉を二つ摘んで彼に聞き、

「俺はこの皿にだったら、絶対こっち」

「えー?でもそれだと色がぼやけるし…」

と、意見を聞くだけ聞いて従う気はさらさらない、という女子あるあるを発動。

ああでもない、こうでもないときゃっきゃ選びながら、不意に鏡張りの壁に映し出された自身と目が合い、テンションが急降下した。誰ですかこのくたびれたおばさん…。

48才、女。

私は自身の老いと体型の変化に、まだ心が全然追いつけないでいる。

 

さんざん迷ったあげく、結局お店でもともとディスプレイされていた組み合わせのものをそのまま選んだ。見過ぎちゃってもう、かわいんだかどうなんだか、わけわからない。とんぼ玉がゲシュタルト崩壊

 

参道のうどん屋さんで年越しうどんを食べ、店を一歩出た瞬間、「ハァァッピーニュゥーイヤアアアー!!イエェェーーー!!」という叫び声が聞こえた。

声の方を向くと、女子高生くらいに見える若い女の子たちの塊が、一人の子の伸ばした腕の先にあるスマホに向けて思い思いのポーズをとっている。

横で彼がズボンのポケットからスマホを取り出して待受画面を確認し、「ああ、明けたんや」と呟いた。

若さが弾けとるな、と彼女らを見ながら思い、けれど自分にあんな頃があっただろうか?と思い直した。少なくとも私は、「ハァァッピーニュゥーイヤアアアー!!イエェェーーー!!」て叫んだことは人生でただの一度もない。

 

「神様に何お願いした?」と彼に聞いたら、「俺は何も頼まない」と返ってきた。

そういう人もいるのか。私は、叶わなくても神様を恨まずにすむ「ちょうどいいラインの願い事」をすることを心掛けている。あと行き違いがないよう、依頼内容は具体的に伝えることも。

「今年こそコナン君の黒幕の正体がわかって連載終了しますように」って神様にお祈りした。去年も同じことを祈った気がする。

(※金毘羅宮の神様は、航海の安全や豊漁祈願、五穀豊穣、商売繁盛、病気平癒などにご利益のある神様だそうです。コナン君、専門外。)